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旅するスパイスキッチン

冬のトルコの温かいキッチン

2015/10/14 18:30 晩ごはん 旅行・お出かけ 家族

 もう遠い遠い昔のようだけど、いつでもその匂いや温度を鮮やかに思い出せる、トルコで過ごした高校生の日々。


 どんよりと暗い雲が毎日たれこめ、ボスフォラス海峡の冷たい水を含んだ風が頬を叩きつけるような冬のイスタンブール。

授業を終えてホストファミリーのアパルトマンに戻ると、室内はセントラルヒーティングでふわっと暖かくて、ホストファミリーのアンネ(お母さん)もババ(お父さん)もキッチンにいて、

「蜘蛛?帰ったの?さぁさぁ、ごはん食べなさい」

とキッチンの小さいテーブルに手招きされる。

冷たい空気をまとったまま、アンネやババと両ほほにキスをして「ただいま」の挨拶をする。


サロンには大きな食事用のテーブルがあるけれど、そこは普段はきれいなテーブルクロスや花瓶で飾られていて、お客様が来る時しか使わない。

普段はキッチンの小さなプラスチック製のテーブルで、来た人から順に食事を始めるのは、トルコの家庭ではよくあること。


私がトルコの高校の制服のままキッチンに座ると、すぐさま目の前に、厚く切られたバタールのようなトルコのパンと、くし切りにしたレモンが沢山と、レンズ豆とかトマトとかの温かいスープがぽん、と目の前に置かれる。

スープにレモンをたっぷり絞って、塩と並んでテーブルに置いてある粗挽き唐辛子をちょっと振って、パンを千切ってスープにつけながら食べる。

そうしていると目の前に、お米と一緒にとろりと炊いたリークだったり、柔らかく煮たカリフラワーだったり、鍋いっぱいの葡萄の葉で挽肉とご飯を巻いたものだったり、ポテトとレバーをトマトで煮込んだものだったりが、これまたポン、と置かれる。

「蜘蛛、いっぱい、いっぱい、食べるんだよ。食べる食べる食べる!」

2mちかい身長の大きなババが、まだトルコ語があやうい私にも分かるように言う。

この家族はみんな身長が高いのと、言葉ができなくて幼く見えるので、私はババにufaklık(おちびちゃん)という愛称で呼ばれていた。

そのうち、この家の娘で、私の無二の妹であるトゥーチェが帰ってきて、私と同じようにキッチンに呼ばれて、家族全員にキスをしてから、制服のまま、私の向いに座る。


アンネはキッチンの窓を少しあけてタバコを吸いながら、私達に今日あったことを訊いたり、自分が今日耳に挟んだニュースを話したり、全然関係ないけど突然気になったことを話しはじめたりする。

ババは静かにコンロの前で、食後のチャイを用意しながら、ほんの時々口を挟む。

その間にも私と妹トゥーチェは、テーブルの上の料理にレモンをかけたり、汁にパンを浸したりしながら、せっせと口に運ぶのに忙しい。

とくにカリフラワーやリークは私達の大好物だった。

キャセロールにやまほど作ってあっても、2人が帰って来るやいなやきれいに無くなるのでアンネは喜びながらも驚いていたもの。

食べ終わったタイミングでババが淹れてくれたチャイを飲む。もちろん小さなガラスのカップに、角砂糖を二ついれて。


 気がつくと外はもう真っ暗になっていて、アンネが開けた窓から冷たい風が入ってくる。

けれど、4人が入るのがやっとの小さいキッチンは、質素な幸せに溢れた温かい灯りをその窓にいつも映していた。

イスタンブールの冬は寒くて暗いけれど、私には寒かった記憶がない。



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