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旅するスパイスキッチン

半生をともにしたフードプロセッサー

2016/04/02 19:38 キッチングッズ くらし

私が生まれてすぐに、それは我が家にやってきた。


ジューサー、ミキサー、フードカッターが揃って、当時としては高機能だったのかもしれない。

私の離乳食のピューレを作るために購入されたそれは、私が赤ちゃんでなくなってからも、風邪の時にはリンゴとバナナのピューレを作ったり、健康のためにニンジンのジュースを作ったりと、子供時代の私の食生活を支えてくれた。

ある時からジューサーとミキサーの部分が壊れたので仕舞われていたのだけど、私や母がお菓子作りに目覚めてからはフードプロセッサーとして再びキッチンに復帰した。

クリームチーズと卵を混ぜたり、タルト生地をサンドリングさせたり、アーモンドを砕いてアーモンドプードルにしたり、今ではすっかり古くさくなってしまったプラスチック製の見た目のそれは、我が家に来て十何年、二十年と過ぎても律儀に働き続けた。


ある時、本体とフタをセットする部分のプラスチックの羽が折れてしまった。本体にその羽がきちんとはまっていないと、安全のためカッターは動かない仕組みなのだ。いよいよお別れの時が来たか、と思ったら、母が羽のはまるべき部分に竹さじを

指しこんでみると、羽で押されるべき弁がちゃんと引っ込んで、カッターは無事に回り出した。

それからは、竹さじとセットで、ファラフェルの具材を混ぜ合わせたり、スープのためのモロヘイヤを刻んだり、私のクッキングライフには相変わらず欠かせない存在でありつづけた。


数年前の誕生日、野菜が瞬時におろせるマシンをリクエストした私に、友人が最新型のマシンをプレゼントしてくれた。

シルバーのボディとスタイリッシュなデザインのそれは、野菜をおろすだけでなく、フードプロセッサーやスピードカッター機能も搭載していた。

三十年働き続けているあれにできる機能はもちろんあって、それ以上のこともできるマシンだった。もちろん、竹さじを差し込む必要もない。


いよいよ、古い方はこれでお蔵入りになるのか、と思われた。


新しいマシンにその座を譲ったら、もう古い方がふたたび使われることは無いだろう。しばらくは納戸に仕舞われて埃をかぶっているだろうが、そのうち大掃除の時などに廃品として出されてしまうのが目に見えている。

けれども、それはなんだか寂しく思われた。

私が生まれた時からずっと私の食生活を支えてくれて、今でも十分にタルト生地やファラフェルの下ごしらえが出来るのに。


結局、箱のまま納戸に仕舞われたのはシルバーのマシンの方だった。結婚して実家を出る時には嫁入り道具として持っていくから、と心の中で友人に謝りながら。

古いあれは、その後も竹さじを差しこまれながら、得意気にキッチンで働き続けることになった。



結婚して海外に住むことになった私は、いま妊娠中だ。

里帰り出産をすることになったから、産んでからもしばらく実家で育児をする。

赤ちゃんが離乳食を食べ始めるのは意外と早いのだなと驚いて、ふとあれのことを思い出した。

そうだ、きっと私の子の離乳食も、あれが作ってくれることになるのだろう。

私の乳児期、幼児期、少女期、大人になってからも常に私の人生とともにありつづけたあれは、母親になった私のことも支えてくれるだろう。


古臭くて、黄ばんでいて、竹さじが無いと動かないやつだけれど、「もう働きたくない」と言う日まで、まだまだキッチンで頑張ってもらうよ。

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